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[INSIDE]なぜ、三育では"寮教育"をするのか:齋藤広義

広島三育学院は、他の私立校や公立校とは一風変わった教育を展開しています。
どんな活動をしているのか。そして、そこにはどんな意味・意図が込められているのでしょうか。
「INSIDE広島三育学院」は、広島三育学院で教員や職員を務める先生へのインタビューを通して、広島三育学院の教育内容を深掘り紹介していくシリーズです。(聞き手:広報担当 やまぐち)

なんか違う?

広島三育学院を卒業した卒業生が、大学や専門学校などに進学し、その先社会に出て、そこで出会った三育出身ではない方に学校を紹介してくれることが多々あります。
その卒業生の知り合いの方々が、三育に興味を持ってくださった理由を聞くと、「この人は、なんか他の人と違うんですよね」と卒業生のことを形容してくださることを幾度か聞いたことがある、と高校で教頭を務める齋藤広義先生は言います。

齋藤先生は、教員生活を始めて20年以上が経ち、多くの卒業生を見送ってきました。

広島三育学院を卒業した人は、何が違うのでしょうか。
その理由は三育学院が教育の根幹としている「寮教育」にあると、齋藤先生は自信を持って答えます。

では、三育学院の「寮教育」とはどんなものなのでしょうか。
他の学校の「寮」とはどんなところが違うのでしょうか。

三育の寮生活

三育教育のベースとなる「寮教育」

齋藤広義先生は現在、広島三育学院高等学校の教頭を務めています。
担当教科は数学。三育の教員になってから、寮監(寮のスタッフ)なども経験し、キャリアは20年を超える教諭です。
そんな齋藤先生は、3年前に私たち三育学院の母体となるキリスト教のSDA教会系列でフィリピンにある大学院にて修士課程を修了し、修士号を取得しています。

そこでの卒業課題に選んだのは「寮教育」でした。

「SDAが展開する教育について調べてみたく、その中でも自分は教諭になってから中学校、高校の両方で寮監を経験し、自分自身も学生時代に寮生活を送っていたので、三育の寮教育について学びを深めたいと感じていました。より中高の6年間で一貫した教育ができるのではないか、という課題も感じていました。」

齋藤広義先生

しかし、世界的にはこの「寮教育」と言う概念は一般的ではなく、そもそも英語に訳せないという壁があったと言います。
直訳すると「dormitory education」。最初に研究テーマを教授に相談したときには「なんだそれ」と言われたそうです。

世界的には、学校での寮というのは大学からセットになっていることが一般的で、中高を寮で暮らすというのは特殊で、文献がほぼなかったのです。

ではなぜ、日本の三育学院では中高の学校教育の中に「寮」を取り入れ、そして単なる生活するだけの「生活寮」ではなく「教育寮」の形をとっているのでしょう。

広島三育学院高等学校教頭の齋藤広義先生

他者のために生きる

寮を設置する一番のメリット。
それは、環境面にあると言います。

生徒たちが家庭から離れることで、彼らが集中的に何かに集中できる環境を作り出す、という点は最大のメリットです。
通学時だけの時間だけでなく、寮でも寮監や先生が生徒と関われることで、生徒をよりよく観察しコーチングすることができます。
これは、三育だけに限りません。
例えば、学習に特化した受験校であれば、寮で学習時間を集中的に取り組ませることができますし、スポーツに特化した学校であれば、寮で食事や睡眠の管理などが出来、徹底的に体作りをすることができます。

齋藤広義先生

集中的な環境。
これが寮における、最大のメリットであることがわかりました。では、三育の寮では何を集中して生徒たちに促しているのか。
そこには、三育ならではの特色があると言います。

私たち広島三育学院が中学校3年間ないし、高校合わせて6年間かけて生徒たちにどんな人間になってもらいたいか、という姿ははっきりしています。

それは、「他者のために生きることのできる人間」です。

教育方針として掲げる3つのポリシーのうち、アドミッション・ポリシー(求める生徒像に関する方針)では、「日本だけでなく世界で人の幸福のために生きる人を目指す人を求める。」と明記しています。
また、ディプロマ・ポリシー(卒業認定に関する方針)では、「神と人のために生きることに献身する生徒に卒業を認定する。」としています。

冒頭に記載した三育を卒業した人が「他の人とはなんか違う」感覚を持たれるのは、このことが一番大きな影響ではないか、と齋藤先生は話します。
そして、この「他者のために生きる」ことの原点が寮生活にあるといいます。

家庭から離れ、同年代の生徒たちと共同生活をすることによって、親から与えられるだけではなく自分で自分のことをすることはもちろん、時には誰かのために自分の時間を使わなければなりません。

後輩の指導をしたり、共同スペースを掃除したり、ゴミを捨てに行ったり、病気になってしまった友達の洗濯物を取りに行ってあげたり…。
具体的に挙げればキリがありませんが、寮生活をするということは、他人のために自分の時間を割く、ということを受け入れなくては生活ができません。

自分のことが自分でできるから、人の手助けができる

寮、という集中的な環境で他人と向き合い、自分と向き合う時間を作り出す。このことが、「他人のために生きる」人間になるための土台となっているのです。

このような考えを土台とすると、学校教育だけでの教員と生徒との関わりでは足りず、教員と生徒、そして生徒同士がより関わることのできる集中的な環境、つまり寮が必須になってくるのです。

齋藤広義先生

自立と責任、自己肯定感。

集中的な環境面以外にも寮生活で期待できるメリットはいくつか挙げられると齋藤先生は話します。

その中の一つが、家庭から離れ同年代の生徒たちと共同生活することから生まれる「個人的・社会的発達」があります。
⽣徒たちは、寮のスタッフとの交流や他の学⽣との学び合いと協⼒し合う経験から、他者を尊重することを学び、社会性やコミュニケーション能⼒を身に付けられます。

齋藤広義先生

これは三育の寮だけに限りませんが、生徒たちが親元を離れ、自分たちだけでより良い生活空間を生み出そうとし続ける自治運営寮であることが大きな特徴です。
寮のスタッフや先輩後輩が意見を出し合い、協力してより良い寮運営を目指して生活しています。そこでは、社会性やコミュニケーション能力が求められ、3年間を通して育まれていくのです。

また、寮生活は⽣徒が⾃⽴し⾃信と責任感を育むことを助けます。
授業以外の時間の⽣活全てにおいて、決められたプログラムと規則から、⽣徒はその構造化されたシステムの中で規律を学びます。こういった環境では、自分のことが自分でできる。それが、13歳くらいからできる、ということは生徒自身の自己肯定感を高められると期待しています。

齋藤広義先生

大きなところで言うと、自治運営というところで、生徒たちの中から選ばれた寮役員はその責任を果たそうと日々考え、努力します。
これが、寮全体のことだけでなく、1部屋3人で構成される同部屋、そして自分の生活空間を自分で責任を持って管理すること、生活すること。
この環境に身に置いた子供たちはどんどんと自分のことが自分でできるようになっていきます。
そして、この環境を中学1年生時代である12〜13歳からできる、という経験は子供たちの自己肯定感向上につながっていくと私たちは信じています。

寮の生徒役員会議の様子。自分たちで課題を見つけ、解決方法を探ります

実際に、全校生徒を対象におこなったアンケートでは「自分のことが好きですか?」という質問に、「まあ好き」・「好き」と答えた生徒は7割を超えています。

もちろん、良いことばかりだけでなく、同年代の子供たちが一緒に生活するわけですから時に衝突することもあります。それでも、その衝突から和解をしようとするコミュニケーションも一つの学びです。
役割が与えられ、他人と協力する姿勢が日々の生活レベルで求められること。
学校だけでなく、寮でも必要とされる。こういった経験が生徒たちの社会性やコミュニケーション能力、責任感を育んでいると思います。

齋藤広義先生

現代にこそ求められる「寮教育」

現代の日本社会は「分断」の世の中と言われています。
コロナ禍を経てさらに加速的に進んだ「分断」の世の中において、上述したコミュニケーション能力や自己肯定感は、現代の日本社会にこそ求められる能力ではないでしょうか。

ここまで、寮生活のメリットばかりを記述してきましたが、寮生活にはもちろんデメリットとして考えられるものもいくつか挙げられます。

小学生で寮に入れるのはどうだろう、と感じられる親御さんも多くいらっしゃいます。「親の愛情から離される」と感じてしまうこともありますし、それは年齢が低いと感じやすい、と言われてます。ただ、中高生は疎外感を感じた生徒を見たことはありません。
また通学校に比べて、思春期の子供たちが共同生活をするので、特有の同調圧力(ピアプレッシャー)のようなものを受けやすいともされています。

齋藤広義先生

しかし、このようなデメリットとして考えられるようなことも含めて、自分には受け入れ難いことに対してどうすればいいか、を考えること。
壁にぶつかり、どうしようもなくなってしまうようなことに立ち向かうことことを通して三育の寮でしか学べないことがあるのです。

逃げ場のない人間関係の中でこそ学べること

人と距離をとりたくても、取れない。
そのような環境でどのように生徒たちが壁を乗り越えていくのか、というと周囲との協力です。

これは、三育が代々受け継いでいる伝統だと思うのですが、人を見捨てないんです。そのような子供たちが自然と育っている気がします。
役員になる生徒たちだけでなく、困っている仲間がいたら見捨てない。
そんな人間に対する優しさ、人間愛を持った人間が三育の寮生活を通して育まれています。
このような人間が卒業生として社会に出ていき、弱い立場、苦しんでいる人たちを「見捨てない」という姿勢で社会に貢献してくれていると思います。
それは、有名になる、ならない関係ありません。
その人がいる小さなコミュニティの中でそのような姿勢で生きてくれている。
そのような姿勢を見て、「なんでこの人は他と違うんだろう。」と感じてくれているのではないでしょうか。

齋藤広義先生

対話のできる人間を。

「分断」の世の中だからこそ。
他者とのコミュニケーションを学び、責任感を育み、自己肯定感を伸ばす。

他人のために、粘り強く対話できる人たち。

広島三育学院の寮は「他者のために」が自然にできるような場所です。
そのシステムがある寮です。

皆様が今生きている世の中で、皆様のお子様にどのような人間になって欲しいと願っていらっしゃいますでしょうか。

もし、「他者のために生きられる人間になってほしい」と少しでも感じていらっしゃる方がいらっしゃいましたら、ぜひ私たち広島三育学院をお訪ねください!

お待ちしております!

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